株式会社アスタリスクは、2018年10月24日(水)に開催した「ESG不動産不動産投資シンポジウム:東京2018」において、事前に寄せられた質問内容を中心に質疑応答を行いました。現在、世界の有力投資家達が次々とESG不動産投資を始めており、日本に対する期待も一層高まりを見せています。当シンポジウムの開催が、当投資セクターへの理解促進の一助となり、ESG不動産投資の発展に益々貢献したいと考え、内容をリリースさせていただきます。

 

登壇者: 

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アンナ・マレー氏
ベントール・ケネディ社 サステナビリティ部門ヴァイスプレジデント
国際環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)
プロパティ作業部会 共同議長  

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堀江 隆一氏    
CSRデザイン環境投資顧問 代表取締役社長
国際環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)
プロパティ作業部会 顧問

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ヘザー・マクリッシュ氏    
EY新日本有限責任監査法人
シニアマネージャー 気候変動・サステナビリティサービス ESG/SDG担当 CCaSS部門  

 


司会:

伊藤 幸彦
株式会社アスタリスク 代表取締役

 

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Q1: 運用者のESGに関する取り組みの開示状況や ESG先進国と日本の差に関して、お聞かせ下さい。

 

堀江氏

GRESB開示評価は、GRESBリアルエステイト評価と異なり、開示情報のみに基づいて評価が行われている。その開示評価スコアにおいて日本は大きく進歩し、5段階評価で去年はD判定、今年はA判定へと躍進。これは年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が2017年の夏にインデックス投資を開始し、それが全て開示情報に基づいて行われていたことが好判定へと影響した。
 
開示項目に関しては、JREITを中心とした日本の運用機関が追い付き、追い抜いていはいるものの、内容的にはまだ足りない感触がある。グローバルの先進事例を見ると、持続可能な開発目標(SDGs)を意識した開示や、GRI(Global Reporting Initiative: 民間企業、政府機関、その他の組織におけるサステナビリティ報告書への理解促進とその作成をサポートするNGO)のサステナビリティに関する報告枠に基づいたKPIの設定、さらに個別目標を設定し実績を開示している。2030年までのCo2排出量削減に対し、2017年はここまで達成しているといった、長期的な目標に対してどこまで実現しているかなど、戦略面において日本は努力が必要。今後の動きとしては、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)に対応する気候変動の問題との戦略ガバナンスリスク管理において、指標と目標を立て、それらのリスクと機会がどこにあるのかといった突っ込んだ開示が今後の課題となる。日本ではResilience(リジリエンス)というとBCP(事業継続計画)に近い概念として捉えられているが、海外運用者の先進事例は、リスクと機会に対して戦略を立案し、ガバナンス態勢はどのような状況で、それらに対しどのようにリスク管理を行い、どのような指標と目標を立てているかについて開示している。

 

Q2: 不動産におけるESGとは、省エネ以外にどのようなことがありますか?

 

マレー氏

省エネ以外のサステナビリティには、省エネも含まれてはいるものの、水・廃棄物管理・カーボンフットプリント・ウェルネスがあり、具体的には室内における空気の質、アクセスのよい運動施設や、徒歩圏内の遊具センター、交通ハブに近いアセットが注目されている。

パフォーマンス向上のためには、そのプロセスに注力することが重要で、ポートフォリオ全体としてサステナブルなパフォーマンスをしているかどうかを調べるには、データの頑健性(データを取るプロセス)が肝要。ベントール・ケネディ社では、第三者認証を受けた専用のデータ管理システムを有し、これによって何が足りないかといった差異を特定し、どの部分に注力すればパフォーマンスが向上できるかという点も示されるようになっている。

気候変動対応のサステナブル商業物件においては、これまで洪水リスクにしか目が向けられておらず、今後はその範囲を広げたいと考えている。当社でもこれに対する実証試験を行っており、結果が出次第公開する予定。運用パフォーマンスとしてインパクトが出る部分に加え、潜在的なインパクトはどこにあるかに焦点を広げて検証する必要がある。運用パフォーマンスレベルで理解し、保有するポートフォリオが被る想定最大損失額を特定した上で、個別のアセットレベルまで掘り下げ、個別のアセットレベルでの適応がどこまで進んでいるかを検証する。今後は洪水に加え、気温上昇や台風・嵐・海面上昇といった事象とも勘案してゆく

 

マクリッシュ氏

私たちがESGを考える時、ストーリーテリングの重要性を勘案してもらいたい。各社が置かれている事業独特のストーリーテリングは何かを調べ、より幅広い層を対象にすることができれば、そのこと自体が強力なメッセージとなる。

 

Q3: 将来(2030年、2050年)における不動産のあるべき姿についてお聞かせ下さい。

 

堀江氏

従来のグリーンビルディングの概念と健康と快適性が合体したものが将来のグリーンビルディングの姿と言える。

従来のグリーンビルディングの要素は、エネルギー・水・産業廃棄物・材料・室内環境となっており、中でもエネルギーは、最も重要な要素として今以上の省エネが必要で、2050年に向け最終的にはネットゼロを求められてる。SBT(Science Based Target)「2℃目標」(地球の気温上昇を産業革命前の気温と比べて2℃未満に維持する企業の温室効果ガス削減目標)に沿った場合、各社が何パーセントのCo2排出削減を求められるかは業界によって異なる。ある不動産会社の発表を見ると、2030年までに30%削減、2050年までには高いところで80%削減を目標としている。ビル単体での省エネには限度があり、エリア単位でのエネルギーマネジメントや、複数棟のビルのエリアマネジメントを一括で行ったり、都心のビルの屋上に太陽光パネルを設置したり、グリーン電力証書等も重要となる。


これまでのグリーンビルディングの概念は、省エネ・低炭素といった地球環境負荷の低減であったが、それらに加え「健康と快適性」という観点から、入居所の健康快適性を高め、オフィスの生産性も同時に高める動きへと移行している。

人間工学的なデザインや「集中とリラックス」といったアクティビティーを基軸にした労働という観点から見た場合、日本のオフィスは概ね島型に配置され、コミュニケーションを図る上では利便性があるものの、集中面においては難がある。少し離れた場所でインフォーマルなコミュニケーションが可能なスペースや、昼寝スペースがあるオフィスが求められる。

また、栄養や水の観点からは、従来「水」と言えば「節水」とされていたものが、現在では働く人々が良質な飲料水をいつでも摂取出来たり、有機野菜や果物を取りやすい環境でるあることなども、評価の対象に入っている。

既存の概念において、エネルギーや炭素は今後目標程度が厳しくなり、健康と快適性を兼ね備えたビルが、「将来求められる不動産の姿」となる。 

 

Q4: 世界において、この分野への関心度はどの程度になっているか、お聞かせ下さい。

マクリッシュ氏

ESG投資が好ましい思う理由として、現在成長中であり、ESGに関心が集まっていることや、ESGといえば、グリーンなものはサステナブルな物だという啓蒙効果が見られるようになってきている事が挙げられる。暫くはこの啓蒙教育が続き、その過程において良質なアセットを提供することができれば、さらに関心が関心を呼ぶという結果をもたらし、 この分野においては不動産に限らず、色々なアセットがその対象となる。

重要なポイントはパフォーマンス実績であり、低リスク高パフォーマンスとなれば、おのずと多くが注目するようになる。香港では大気の質が重要で、屋内の空気がきれいであることが売投資物件としてのアピールポイントとなる。香港はグリーンな建物であればあるほど、短い期間で収益化を実現し、全うな価格が付くとされている。日本では2019年のラグビーワールドカップ大会、2020年の東京オリ・パラリンピック開催を控え、グリーンなアセットがあるとなれば投資家が動き出すことは容易に想像に難くないので、日本にはそのニーズに対応してもらいたいと考えている。

 

Q5: ESG評価 (DJSI、MSCI、Sustainalytics等) への対応について、対応すべき具体的な優先順位について、またオフィス・商業等に比べ出遅れている(テナントが個人のため取り組みが難しい)レジデンスにおける、サステナビリティ向上のポイントをお聞かせ下さい。

 

マレー氏

私はUNEPの不動産ワーキンググループと責任ある不動産投資原則を支持しており、それぞれ持続可能な開発目標(SDGs)の目的を掘り下げ、自身にとって何が有用なのかをアセットレベルの運用やポートフォリオ全体の改善に取り組むことで、良い実績が出ていると評価している。

サステナブルな不動産投資の継続へのマーケット戦略を策定する際、良い参考となるのはGRESBEの指標。競合他社が何に注目しているかという点も、この指標から読み取ることができるため、その結果、実績も向上する。オフィス用や商業用と比べ、レジデンスは難しい側面があるが、この点においてテナント関与プログラムは重要となっている。これは入居者を関与させるプログラムとして、この部分のモジュールがGRESBの指標として組込まれている。

入居者関与プログラムにおける3つの側面の一つ目は、当社がポートフォリオで事例研究を行ったものが発表されている。アプローチを改善して入居者を関与させたワシントンのアセット実例では、廃棄物が10.4%削減、エネルギー11%の節約を実現している。

入居者を関与させるという点において、コミュニケーションは重要な要素。エネルギーや水、ゴミの削減といった有用なテーマを選び、それらを一緒に体験する。二番目はオペレーションの側面で、指示が出たらそれを運用できるようオペレーション体制がアセット内に準備されている事。三番目は技術的支援。資本投下してのスマートテクノロジーを導入し、サステナブル関連の実績を向上させる


Q6: 世界の投資家が日本の運用会社に求めるESGの水準とは何ですか?(グリーンビル認証の数・RPI等の宣言・GRESBやその他の第三者認証など)


マクリッシュ氏

日本に対する世界の期待は非常に高く、グローバルな投資家は、日本は既に何らかの有用な試みを行っているのではないか?という提でアプローチをしてみたものの、実際はそうではないことを知り残念に感じており、今後は、真の意味で優れた明確な開示をしてもらいたいと期待している。最も重要な点は、戦略として100%サステナブルになっていなくても、サステナビリティを目指す経路を辿っている、ということが伝わるだけでも、相当理解を深めることができる。持続可能性は目的地ではなく「旅の行程」であり、その「旅」を今もなお継続していることを投資家に理解してもらうことで、投資家の関心を維持することができる。

 

堀江氏

不動産にとってのサステナビリティには会社レベル・ファンドレベル・アセットレベルがある。会社レベルのコミットメントは責任投資原則(PRI)あるいは責任ある不動産投資(RPI)、ファンドレベルの取組はGRESBEのような評価が行われ、アセットレベルの取組はグリーンビルディング認証となっている。全てを完璧にやるということではなく、これはまさに「旅」であり、現在進行形で継続することが肝要。

 


Q7: 取り組むべき優先順位をつけるコツやヒントはありますか?

 

マクリッシュ氏

先ずは主要リスクは何か?を特定し、それらを潰して行くことが重要。その後余裕があれば、もう少し野心的な目標にも対応する。会社にとって一番の痛みは何か?ということから判別し、その解消に着手するのはどうか。

 

堀江氏      

CSRやサステナビリティの重要課題は、ステークホルダー(利害関係者)にとって、あるいは会社や会社経営陣にとって重要なポイントは何かによって選別される。ステークホルダー(利害関係者)の重要ポイントは、GRESBEやMSCI(MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数)で問われる項目が、投資家を含むステークホルダーが重要視する項目となっているので、その中から選んでゆくのが近道。不動産の場合はエネルギーは必ず組込まれる項目であり、ヘルス&ウェルビーイングをどの程度組込むかは、各社のカラーに委ねられる。

 

マレー氏

バリューの提案とリスクを見て判断するのはどうか。機会があればそれを糧として付加価値を高める。ベントール・ケネディ社は2008年以来、運用するポートフォリオのエネルギーコスト削減努力を行い約2,000万米ドルの効果を上げ、それだけでも効果は大きいと言える。常に入居者の満足度を高めるべく、入居者と対決しないよう心掛け、アセットのケアを念頭に運用を行い、コストを下げ効率を上げテナントの満足度を高める。

 

尚、当イベントの概要はこちらからご覧いただけます
https://japanplacementagent.com/blog/event/esg-real-estate-investment-symposium-tokyo-2018/

 

Bentall Kennedy(ベントール・ケネディ)
企業HP :
https://www.bentallkennedy.com/news-and-media.php

CSRデザイン環境投資顧問
企業HP :
http://www.csr-design-gia.com/index.html

EY新日本有限責任監査法人
公式HP :
https://www.shinnihon.or.jp/

 

その他、ESG不動産投資に関するニュースは弊社ウェブページでもご覧いただけます。

 

アスタリスク

海外ESG不動産投資事例レポート – 都市化(Urbanization)との補完
https://japanplacementagent.com/blog/esg/esg-real-estate-casestudy_north-america_asterisk_2018-januaryf/

ESG 不動産投資におけるアセットマネジメント事例 – テナント参加型ESG
https://japanplacementagent.com/blog/esg/asset-management-tenant-engagement/

ESG不動産はどのように投資家に価値をもたらすのか? 環境配慮型ビルによる健康や生産性の促進
https://japanplacementagent.com/blog/esg/green-buildings-boost-health-productivity-and-value-for-investors/

 

不動産投資におけるESGの導入については、国内機関投資家より大きな関心が寄せられております。国内市場での不動産におけるESG要素は、建物運営のエネルギー効率改善による費用削減といったイメージが主であるのが現状です。

しかしながら、実際には賃料上昇、テナント定着率の向上、リーシング費用の削減といった運用パフォーマンスの向上へつながる要素があり、グローバルリーダー達は積極的に活用しています。

運用パフォーマンスへのこれらの影響を裏付けるものは、蓄積されたデータによる数値的な解析であり、  実績と経験に基づく実施です。こういったデータとノウハウが資産運用レベルで蓄積している企業や運用会社は非常に限られていますが、ベントール・ケネディ社では数十年に及ぶ取り組みとともに、外部の研究機関のリサーチなどによるデータ実証も行っております。

より詳細なESGの不動産投資におけるリサーチなどについては、弊社までお問い合わせください。

 

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株式会社アスタリスク
Asterisk Realty

東京都千代田区紀尾井町3-29 グリュックハイム2003
Tel: 03-3263-9909
Fax: 03-3263-9908
Mail: info@asteriskrealty.jp

※当記事及び上記のセミナーは情報提供を目的としたものであり、法的拘束力はありません。アスタリスクは、当記事及び上記のセミナーの内容に関する正確性および完全性を保証せず、その内容を随時変更することがあります。当記事及び上記のセミナーは金融商品の勧誘を意図したものでなく、市場に関しての情報提供を目的としたものです。