Brexit : 混乱する英国の個人向け公募不動産ファンドの市場規模とその影響力 – 2016年7月19日

London-Real-Estate
2016年7月4日以降、英国の公募不動産ファンド(個人投資家向け)が相次いで償還延期と取引の一時停止についての発表がされ、英国不動産および英国経済への波及について市場では様々な憶測がされています。
 
(関連記事)Brexit : 英国の個人向け公募不動産ファンドの混乱と、機関投資家向け私募不動産ファンドへの影響 – 2016年7月7日
 
今回の不動産ファンドの償還延期・一時取引停止に関して、騒動の中心である個人投資家向けの公募不動産ファンド(PAIFおよびUnit Trustなど)と、機関投資家向けの私募オープンエンド・ファンドをはじめとした他不動産投資主体や、英国の不動産市場全体からの位置付けなどについて複数のお問い合わせをいただいております。以下に弊社がコンサルタントを務める英国大手不動産運用会社のM&G Real EstateとInvestment Property Forum (IPF)の試算をもとにした概況についてご案内させていただきます。
 
最新の英国の商業不動産の規模の試算はInvestment Property Forum (IPF) の2014年末時点でのもので、£7870億と試算されており。M&G Real Estateはこの数字を元に、さらに2015年のIPDが試算した英国不動産全体のキャピタル価値上昇率の8.0%を加味した約£8500億が2015年末時点での英国の商業不動産の規模と試算し、さらにその内の57%にあたる約£4850億が投資可能な不動産市場規模と推測しています。
 
 
主なポイント
 
■ 英国の商業不動産の規模は約£8500億(2015年末時点)
 
■ 英国の投資対象となる不動産市場規模は約£4850億(2015年末時点)
 
■ 英国の公募不動産ファンド(個人投資家向けPAIFおよびUnit Trustなど)の2015年末時点の市場規模は約£200億で、英国の商業不動産市場全体の約2%、投資対象となる市場全体の約4%のシェアを占めている。
 
 
 
英国の投資不動産市場の規模と、保有・投資家タイプ別の内訳 (2015年末時点、、IPFとM&G Real Estateの試算)
投資家タイプ 2015年末時点の市場規模 (£) 投資可能な不動産市場でのシェア(%) 商業不動産全体でのシェア(%)
海外投資家 (直接保有) £1220 25% 14%
英国 & チャンネル諸島籍の投資ファンド £830 17% 10%
英国 REIT & 上場不動産会社 £700 14% 8%
英国 非上場不動産会社 £640 13% 8%
英国 生命保険会社 保険・年金勘定運用ファンド £520 11% 6%
英国 年金基金 個別勘定ファンド £400 8% 5%
英国 伝統的地権者 & チャリティ (王室など) £220 5% 3%
英国 その他 (地方自治体やパブなど) £200 4% 2%
英国 個人投資家 £120 2% 1%
全体 £4850 100% 57%
Source:  IPF, M&G Real Estate, December 2015
 
 
 
上記の英国 & チャンネル諸島籍の投資ファンドの内訳
投資ファンドのタイプ 2015年末時点の市場規模 (£) 投資可能な不動産市場でのシェア(%) 商業不動産全体でのシェア(%)
機関投資家向けオープンエンド・ファンド £260 5% 3%
個人向け公募不動産投資ファンド(PAIFなど) £200 4% 2%
機関投資家向けクローズドエンド・ファンド £370 8% 5%
全体 £830 17% 10%

Source:  Association for Real Estate Funds (AREF), IPF, Financial Times, M&G Real Estate, December 2015

 

 

弊社(アスタリスク)からの解説
 
今回の騒動の渦中にあるのが個人向け公募不動産投資ファンド (PAIFおよびUnit Trustなど)であり、最終的な投資家である個人投資家は日毎に償還請求をする事が可能な高い流動性の設計となっている。 ゆえに今回のように短期間で急激に個人投資家のネガティヴなセンチメントが高まった場合、償還に備えた留保キャッシュ(通常はファンドの10%~15%ほど)を償還請求が上回ってしまう事があり得る。 その場合、PAIFなどは不足キャッシュ分を保有不動産を売却し現金化することによって償還に充てることになるが、日毎可能な償還請求とは違い不動産売却は時間がかかるプロセスであり、また急な売出しによりファンド価値の急激で不合理な毀損から一時的に保全するために、ファンドが償還を延期し取引を一時停止するという措置を取ることが可能となっており、今回は複数のファンドが償還延期・取引の一時停止を行っている。
個人向けの公募不動産ファンドの2015年末時点の英国の商業不動産市場全体でのシェアは約2%であり、投資対象となる市場全体では約4%のシェアを占めている。 また最近の報道では個人向け公募不動産ファンドの約60%(資産規模ベース)が償還延期、取引一時停止、または価格を割り引いての条件付償還を行っなっているが、公募不動産ファンド市場の60%の資産全てが売却または現金化されるという意味ではなく、償還請求のために売却されるのはこのうちの一部である。 また今後、個人投資家が一過的なパニックから落ち着きを取り戻し、償還請求をキャンセルするというシナリオは十分考えられる。(その逆もあり得る)
 
また一方、上記のテーブルに分類されるその他の投資家の投資ストラクチャーは、個人向けの公募不動産ファンドほど短期的な投資家のセンチメントによるシステミック・イベントが起こる流動性や設計になっておらず、投資家のニーズやデュレーションも公募不動産ファンドの個人投資家とは異なっている。
 
例えば、機関投資家向けオープンエンド・ファンド(私募REIT)は投資家にとっての流動性はある程度あるが、月毎や四半期毎の償還請求となっており、またコア運用のため投資家は長期運用の機関投資家が主である。 機関投資家向けの私募クローズドエンド・ファンドは投資家の流動性がほぼ無く、 生命保険や年金基金の不動産勘定は長期運用が前提となっており、 英国王室や財団などの伝統的な地権者は数百年単位で固有の資産を運用・管理する超長期投資家といえる。
上場REITは最終的な投資家の視点からは流動性が高いが、個人向けの公募不動産ファンドとは異なり、投資家は二次市場で売買をするため、投資家がREITの売買をしても上場REIT自身は保有する不動産資産を売却する必要がなく、またREITは基本的には半永久的に不動産を保有し続ける事が前提となっている。
個人や法人の不動産投資家は実物不動産固有の低い流動性が前提となっている。  海外投資家においては海外の政府系投資会社(SWF)を筆頭に様々なタイプの投資家を含んでおり、今後の動向が注目される。
 

本内容は今後の動向等を予測するものではなく、Brexitの短期的な不動産投資市場への余波については少なくとも今後暫くは観察が必要と見られております。

 

*市場規模に関しての数値は全体的な分布を測るための目安であり、多少の誤差は想定されます。 **対象の商業不動産はオフィス、リテール、産業用不動産、その他(ホテルなど)の不動産を念頭においています。 ***長らく英国の不動産投資市場では住宅不動産は確立された機関投資家向けの市場ではなく、今回の市場規模には含まれていません。(ここ数年で機関投資家向け市場も発展しつつあります)

 

 

(記事: 伊藤 幸彦)

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