Brexit : 英国の個人向け公募不動産ファンドの混乱と、機関投資家向け私募不動産ファンドへの影響 – 201677

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2016年7月4日に英国の公募不動産ファンドの、Standard Life Investments UK Real Estate Fund(個人投資家向け)の償還延期と取引の一時停止についての発表がされて以来、同様の連鎖が他大手銘柄などにも広がり、広く報道されております。
背景には、Brexitを受け英国の公募不動産ファンドが英国の保有不動産の価値を低く見直している事により、個人投資家からの短期的な不動産価格の変動に関しての懸念が高まり、償還が集中したことがあります。パニックともいえる同様の影響が連鎖的に大半の銘柄で見られており、7月6日時点では7つの英国の公募不動産ファンド(市場シェアの約60%に相当)が、集中する償還請求に対応した不動産資産の急な現金化のための売却からファンド価値の急激で不合理な毀損から一時的に保全するために、償還を延期し取引を一時停止する措置をとっています。 英国の個人向け公募不動産ファンド市場では、リーマンショック直後以来の事態となっています。

今回の不動産ファンドの償還延期・一時取引停止に関しての報道においては、個人投資家向けの公募不動産ファンドと、機関投資家向けの私募オープンエンド・ファンドについての区別が明確でないケースが多く見られ、複数のお問い合わせをいただいておりますので、以下に弊社から概況についてご説明させていただきます。

 

上場・公募 : 個人投資家向け不動産投資ファンド(REIT / PAIF)

Standard Life Investmentsの公募不動産投資ファンド(個人投資家向け)が英国のEU離脱を受けて保有不動産の価値を約5%低い評価に見直したことに端を発した現在の混乱の中で、渦中にあるのが英国で上場・公募している個人投資家向けの不動産投資ファンド・信託(REIT / PAIF)で、日本のJ-REITと同じく市場での2次流通を念頭においたUK REITと、投資家が償還を直接行えるPAIF (OEIC : Open Ended Investment Company)などがあります。 PAIFにおいては償還時の元本含めた現金の支払いがファンドの留保現金を超えた場合は不動産を売却して支払いに充当する必要があり、これが今回の償還延期と取引の一時停止の主要因となっています。
現物不動産は流動性の限られた資産であり売却に時間がある程度必要なことや、短期的な要因から市場で売り急ぐことにより過度の損失をしないため等といった理由で、今回のような償還が集中した場合には償還延期と取引の一時停止ができる設計となっています。基本的に個人投資家向けのPAIFは日毎に償還請求が可能なため、短期間で過度な償還請求が報道と個人投資家心理から引き起こされていると観る市場関係者も少なくありません。前述のとおり、英国では同様の事態はリーマンショック直後にも発生しています。

 

非上場・私募 : 機関投資家向けファンド(オープンエンド & クローズドエンド)

オープンエンド・ファンド
一方の、非上場の機関投資家向けの私募不動産ファンド市場では、現在までこのような事態は見られてません。

機関投資家向けの非上場オープンエンド・ファンドは基本的にインカムに重点を置いたコア・コアプラス型の投資戦略で、個人向け上場・公募不動産ファンドと似た属性の不動産ポートフォリオのケースが多いが、投資家は長期運用を目的とした年金基金等が多く、また償還や物件価格評価も月毎または四半期毎などに設定されているため、日毎の償還請求ができる個人投資家向け公募不動産ファンドよりも、投資家の衝動的なパニックなどは起こりにくい設計になっています。

しかしながら、Brexit の不動産価格へのネガティブな影響はロンドン中心部のオフィス物件を中心に避けられないと考えられており、今後各ファンドの資産価値の見直しと機関投資家の反応が注目されます。
また個人向けの公募不動産ファンドの現金化による不動産売却も、短期的な不動産市場の需給と価格設定にシステミックな影響を与えると想定されます。 資産価値の見直し幅においては、ファンド毎に大きな差が出でることも予想されます。一般的にですが、最もBrexitの影響を受けると予想されるロンドン中心部の物件比率が高いファンドはより大きな影響を受ける可能性があります。この結果については、各運用会社の備えと手腕・長期戦略が問われる機会になると思われます。
また日本でも近年普及した機関投資家向けの不動産オープンエンド・ファンド(私募REIT)の、今回のようなネガティブなイベントにおける設計の有効性が測られる機会ともなります。

目下の注目はどこまで公募不動産投資ファンドなどの資産売却圧力によるシステミックな影響に巻き込まれるかですが、機関投資家向けの私募オープンエンド・ファンドは、急な償還の集中などの事態には償還を約1年~1年半程度の期間において繰り延べまたは分割償還が可能などの設計になっており、短期的な不動産価格のシステミックな下落に大きく巻き込まれないような措置を講じることは部分的に可能であり、ファンドの主な投資家である長期の機関投資家達の反応と姿勢が大きなポイントと見られます。

 

クローズドエンド・ファンド
また今回の市場の混乱は、バリューアッドやオポーチュニスティックなどの戦略を設定し、今後投資するエクイティを確保しているクローズドエンド・ファンドにとっては絶好の機会になると見られます。

現在発生している公募不動産ファンドの償還請求に伴うシステミックな資産売却はタイミングや売却状況の可視性が非常に高く、クローズドエンド・ファンドがオポーチュニスティックなポジションを取るにはまたとないイベントであると言えます。Brexit後の英国の方向性が見え、市場が落ち着いた頃を見計らって積極的で有力な買手になる事が予想されます。
またファンドの特性上、短期的な償還ニーズといった資産売却の圧力が少ないため、既存の英国不動産を保有しているクローズドエンド・ファンドへの短期的でシステミックなネガティブな影響は限定的になると予想されますが、既存の開発案件や比較的高いレバレッジでロンドン中心部の不動産への投資ポジションを持つファンドにとっては難局となる可能性があります。

本内容は今後の動向等を予測するものではなく、Brexitの短期的な不動産投資市場への余波については少なくとも今後暫くは観察が必要と見られております。

 

(記事: 伊藤 幸彦)

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、アスタリスクは、この記事上の記載に関する正確性および完全性を保証せず、その内容を随時変更することがあります。

 

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弊社の過去の関連リポートは以下リンクからご覧になれます
BREXITの資産価格へのインパクト by Oxford Economics & Asterisk

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Brexitによる英国不動産市場への影響 – M&G Real Estate
https://japanplacementagent.com/blog/%E4%B8%8D%E5%8B%95%E7%94%A3/brexit-implications-for-real-estate/

 

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https://japanplacementagent.com/blog/alternative-investments/global-core-real-estate-investment/

 

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